「変化の時代」を生きていくために必要な学びの環境とは?

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【インタビュー連載】十文字高校 × DeruQui ×OPT共催 「J-Lab.×DeruQuiコラボゼミ」

学校法人十文字学園 十文字高校 自己発信コース(以下、十文字高校)と一般社団法人DeruQui(以下、DeruQui)、そしてOPTの3者が協働して2022年度に開催された全6回のオンラインプログラム「J-Lab. × DeruQuiコラボゼミ」

⬆︎2022年度J-Lab.×DeruQuiコラボゼミ 全6回テーマ

⬆︎2022年度J-Lab.×DeruQuiコラボゼミ 実施方法

プログラムを通してどのような気づきがあったのか。全4回に渡って、十文字高校の先生や生徒、親子、DeruQuiの皆さんへのインタビューをお届けします。

初回は、十文字高校校長 横尾康治 先生とDeruQui発起人の中川郁夫さんに、開催の経緯や今の教育に求められていることについて伺いました。

J-Lab.共催の経緯

──まず、DeruQuiと自己発信コースについて教えていただけますか。中川さんはDeruQuiでどんな活動をされているのでしょうか。

(中川さん):尖った個性を持った人材の発掘と成長支援を目指して、学生や若手社会人を対象にゼミを開催しています。以前からこれからは人が活躍する時代になるだろうと思っていましたが、とりわけ社会を変えていくには「尖った人」の活躍が必要だと感じていました。

ただ日本社会では、尖った人、いわゆる「出る杭」は叩かれることの方が多いですよね。私自身も”変わった”人間なので、ずっとそのような経験をしてきました。でも、「出る杭」はむちゃくちゃ良いものを持っていると思うんです。だから「出る杭」を潰したり叩いたりするのではなく、もっと輝かせる仕組みを作りたいなと。多少変わった人間でも、自分の特徴を個性や強みとして発揮できるような場があれば、おそらく社会が変わっていくきっかけになるだろう、そんな思いで2020年3月に「DeruQui」をスタートしました。

──なるほど。横尾先生は2022年度に「自己発信コース」を新設されましたが、これにはどんな背景があったのでしょうか。

(横尾校長)元々のきっかけは、4年ほど前に本校の生徒全員を対象に実施した探究活動です。これがものすごく良かったんですよね。何が良かったのだろうと考えた時に、本校の卒業生で活躍している人たちの「探究的な姿勢」と通ずるものがあるからではと思いました。「探究的な姿勢」とは、教わったことを言われた通りにするのではなく、自分のことも世の中のことも自ら考え行動するということです。探究活動を前向きにできる生徒たちの姿勢は、世の中を変えていけるような力を持っている人たちの姿勢とぴったりと一致しました。

言われたことをその通りにやるような人材ではなく、自ら考え行動できるような人材を育てたいと思った時に、やっぱりあの時の探究活動が浮かびましたし、本格的にそれができる環境が必要だなと思いました。そこから始まったのが「自己発信コース」です。

──お二人に共通するキーワードに「社会を変える人材」がありましたが、そもそもなぜ社会を変えていく必要があるのでしょうか。

(中川さん)とても良いテーマですね。私が感じているのは、世の中が大きな変わり目に来ているということです。これまでのように効率を求めれば世の中が回るような時代ではなくなってきている気がします。私はこれを「生産と効率の時代」と呼んでいます。日本は生産と効率でむちゃくちゃ伸びましたが、あるタイミングで全く立ち行かなくなり始めました。今は「変化の時代」に入ったのではという気がしています。「変化の時代」では効率を求めるよりも、新しいものを作り出していく必要がある。では、新しいものを作り出す人ってどんな人だろうと考えると、言われたことをきっちりする人ではなく、自分で考えて挑戦していく人たちだろうと。これから世の中を変えていく人たちは、はちゃめちゃでも良いから、チャレンジしてみようという人たちだと思います。

(横尾先生)本当に激しく同じ気持ちです。私が本校に勤め始めた約30年前は、高度経済成長が落ち着いてきて、もっとモノを生産しなければいけないという時代でした。そうなると、やはり言われたことを正確にできる人材が求められ、学校教育でも「先生の言うことを聞きなさい」「言われた通りにしていれば社会に出てから活躍できるよ」という風潮があったと思います。それに実際そうだったと思います。

ただ、10年、20年とその方針で進めてきた結果、本当に自分で考えられる子どもたちが少なくなってきたという実感もありました。時代が変わってきた今、そういった人材なくして世の中がやっていけるかと考えると、きっと難しいだろうなと。中川さんが仰るような新しいものを作っていく人がどんどん自分で進んでいけるような、それこそ「出る杭」な子を学校として認めることが必要な時代になってきたと思いますね。

(中川さん)共感するところばかりですね。ちなみに、最近気づいたことがあるので、少し紹介させていただいてもよろしいですか。

──ぜひ!

(中川さん)横軸が時間、縦軸は技術進歩や世の中のニーズです(添付を参照)。グラフは時間とともに技術進歩やニーズの変化が大きくなっていることを示しています。着目したいのは、これまでの30年間(青)とこれからの30年間(赤)で見た時の、変化の大きさです。これまでの30年間は技術進歩が今ほど早くなかったので、縦軸の変化は大きくない。一方で、これからの30年間は変化の大きさが凄まじいと思うんです。つまり、今の子どもたちには、縦軸の変化に対応していく力が求められるような気がしています。

ちなみに青と赤には求められるものに違いがあって、青は「whatからhowを見つける」ことに特化しています。赤は「そもそもなぜするのか」「今何をする必要があるのか」というところから考える、つまり「whyを考える」ことが求められます。学校教育は青のスキルの習得には徹底していると思いますし、たしかに日本人はこれがむちゃくちゃ得意です。でも赤のスキルは学校教育では教えていない。そうなると、縦軸の変化に対応できる人は学校教育ではなかなか生まれにくいんですよね。おそらくこれは社会人教育も一緒です。

縦軸に対応する人材を育てる仕組みが、日本にはずっとなかった。そんな中で縦軸の人材に特化しているのがおそらく我々DeruQuiだったり、自己発信コースだったりするのかなとすごく感じています。

──「赤の部分=探求」とも見えますね。

(中川さん)はい、探求が縦ですね。「なぜ自分たちが取り組むのか」という視点で考えるので、まさしく赤の部分だと思います。

──横尾先生はその探究活動を4年ほど前から実施していたと話されていましたが、その頃からやはり課題意識はあったのでしょうか。

(横尾先生)私が学校の改革を手がけ始めたのが10数年ほど前で、その時に学校と社会をうまく結びつけたいなと思って、いろいろな取り組みを始めました。企業と連携するなど、とにかく学校外の大人の声を取り入れようとしていましたね。ただ、聞くだけで終わってしまったり、体験といっても少し体験する程度だったりで、私がやりたかったのはそういうことじゃないなと感じていました。

その経験から、生徒が自分たちで考えながら体験していくプログラムをしようと思って、形になったのが、4年前の探究活動でした。ただ探究活動はかなり時間が割かれますし、その分、他の学校活動が圧迫されてしまいます。中川さんが仰っていた横軸・縦軸の話は私もとても共感しますが、「授業」として考えた時、学校教育で縦軸をすると、多方面にかなりの負荷がかかってしまうんです。横軸の授業は一斉に一律でできる。一方縦軸の授業は「個別最適」型ですよね。「個別最適」型の授業はものすごくエネルギーがかかるので、それをどうやっていくのかが学校の課題だと思いますし、やはりそれを何とかしていきたいです。

──これまでの教育とは異なる意見の人と話そうとされたり、学校外との交流を考えられていたりと、横尾先生は新しい考えに対してとてもオープンでポジティブですよね。それがすごく面白いなと思うんですが、何か大切にしている考えがあるのでしょうか。

(横尾先生)そうですね。言われたことを言われたままにできる生徒では、これからの世の中は生きていけないという思いはずっとあったので、これをどう変えていくかは、私の中でずっと大きなテーマです。企業や大学の先生に話をしていただいても、話を聞くだけでおわってしまう感じがしていました。話を聞いた瞬間は気づきがあっても、実体験として変化があるわけではない。

OPTの下山田さんと内山さん(共に十文字高校卒業生)が本校の進路講演会で話をしてくださった時にすごく印象的だったのは、海外に行き海外の価値観に触れた時に、「自分自身に変化があった」ということです。海外に行かなくてもなんとか学校内でそれができないかと思って、ぜひ協力してほしいと声をかけたんですよね。そうしたらDeruQuiさんを紹介してもらって、これだ!って思いましたね。

──中川さんはどうして十文字高校とコラボしてみようと思われたんですか?

(中川さん)面白そうだからですね。ちょっと今のは雑すぎましたが、DeruQuiはもともと大学生向けに始めましたが、やっていくうちに高校や中学の学校教育から変えないとまずいのではと思い始めていました。ちょうどそのタイミングでこのお話をいただいて、これは乗るべきだなと。学校との共催はすごく面白そうだと思っていたので、関わらせていただきました。

これからの学校と子どもたち

──「一斉一律」ではなく「個別最適」が求められる今、学校や大人はどのような姿勢で子どもたちと向き合っていくべきでしょうか。

(横尾先生)自己発信コースで言うと、設計するときに大切にしたことが2つあります。1つは自分がしたいことを社会で活かしていくために必要な「自己表現力」「協働力」「リサーチ力」の3つのスキルです。一方で、スキルだけあっても世の中を変える人間には育っていかない。そこでもう一つ大切にしているのが「マインド」です。

「自己肯定できるマインド」「自分こそがソーシャルチェンジャーなんだというマインド」「やればできるというマインド」。成功体験も失敗体験もある中でそういうマインドが育っていかないと、どんなにスキルを磨いてもだめだと思うんです。「探究スキル」と「自己肯定マインド」。自己発信コースはこの両輪でつくっていきたいというのが当初からの思いです。

特に「自己肯定マインド」を育てていくために、「心理的安全性」は意識しているかもしれません。もしかしたら今まではちょっと変わってるねって周りから言われているような子でも、「それこそが自分の特徴であり、強みなんだ」と思えたり、自分の強みをもっと伸ばしていけたり。そうやって、他の生徒や先生から「いいね」と言ってもらえるような、そんな場作りを大切にしています。

──たしかに、先生が応援してくれるのは大事ですね。中川さんはいかがですか?

(中川さん)共感するところばかりですね。実は娘に教えられたことが1つあって、それがまさに自己肯定感の話です。娘がアメリカに3ヶ月間行ったことがあるのですが、その帰国後に開口一番に言われたのが、「初めて自己肯定感を持てた」でした。たしか娘が24か25くらいの時だったと思います。どういうことか尋ねると、それまではなぜ人と同じことができないのか、なぜあなたは人と違うのかと怒られてきた。ところがアメリカにいると、みんな違って当たり前で、むしろ同じことをしていたら全然認められない。違って当たり前というのがすごく良かったし、違うことを褒められたと。娘の言葉を聞いた時に、日本の教育はそこをやらないんだと、改めて痛感しました。

「そのままでいい」ところを引き出してあげることが、実はとても大事なのではと思いますし、娘の教えもあって、DeruQuiでは常にそこを意識しています。人と違うことを当たり前にみんなが受け入れる、それがごくごく自然にできるような場作りを大切にしていますね。

ちなみに、DeruQuiではもう1つ意識していることがあります。それは活躍している大人をたくさん見せてあげることです。社会に出るといろいろな人がいて、いろいろな活躍の仕方がありますよね。だから、できるだけ多くの大人を見てほしいと思っています。DeruQuiに集まる大人は相当変な人ばかりですけど、「こんな活躍の仕方もあるよ」「これだけ、はちゃめちゃで苦労しててもこんなに楽しんでいるよ」とか、そういう姿を見てもらうことによって、学生が大人って面白いなと思えたり、一つのロールモデルになったりすると思うんです。ある学生に聞いてすごく衝撃だったことがあります。その学生は当時高校3年生で、話をしたことがある大人は親と先生しかいなかったそうです。その学生がDeruQuiに参加した時に、こんなにいろいろな大人がいるのかと。大人って面白いと思ったらしいですね。逆に言うと、そんな環境がなかなかないのかなと思ったので、できるだけ面白い大人と会える環境を作りたいという思いもあります。

(横尾先生)そうなんですね。学校は、一律でみんな同じにしなければいけないという場面がとても多く、平等にしなければいけないという変な潜入感に囚われている子が多いのではと思います。でも社会に出た途端に、そうじゃないよというのがやって来るわけですよね。そこでみんな、あれ?ってなっているんだと思います。学校教育でもいろいろな人がいることや自分もいろいろな人の一部であること、変わっているわけではなく、それが個性だということを、伝えていかなければと思いますね。

──「学校教育から」というのはとても大事ですよね。一方で、一人ひとりへの影響が大きい分、大変なこともあるかと思うのですが、横尾先生はなぜそこまで学校教育を変えたいと思っているのでしょうか。

(横尾先生)私が携わっているのが中学・高校ということもありますが、12〜18歳の時期に「自分からいろいろなことにチャレンジできるマインド」「みんなと一緒じゃなくてもいいんだというマインド」が育っていくと、生徒たちの人生そのものが、すごく生き生きとしてくると思うんです。

本校の建学の精神「身をきたへ心きたへて世の中にたちてかひある人と生きなむ」は、「社会に出て役に立つ有用な人として生きていってほしい」という意味です。「社会に出て役に立つ」とはどういうことか考えた時に、自分が誰かのためにしたこと、自分が持つ知識やスキルが誰かのためになっていることだと思います。そしてそれらを実感した時、きっと自分自身の幸せにもつながっていく。これが本校の建学の理念の根底にあると思うんです。この意識を中学生の時から根付かせていけたら、生徒自身の人生も変わるし、世の中も変わっていく、この2つは絶対に連動していると思うんです。

ゼミによる変化

──DeruQuiのゼミを1年間実施してみて、どんな変化がありましたか?

(横尾先生)先ほどの「自己肯定マインド」に、特に大きな変化があったと感じています。中学生の頃は周りからちょっと変だよねと見られていたような生徒もいましたが、そんな生徒たちの自己肯定感が間違いなく上がったと思います。しかも”ちょっと変”と思われていたところがむしろ個性になっているように思います。本人たちも自分の個性をさらに活かしていこうという気持ちに変わっているので、例えば授業の風景を見ているだけでも生徒たちの輝き方というのでしょうか、発言も考えの組み立て方もしっかりしてきています。この変化はものすごく大きいなと思いますね。「自己肯定マインド」と言いましたが、連動して「スキル」も上達しているように思います。思考の整理や構造的に捉えるスキルがすごく上達しました。たった1年なのにものすごく成長したなと感じています。

──中川さんはいかがですか。

(中川さん)すごいなあ、そんなに変わるんですね。ゼミの回数を重ねるごとに皆さんの変化を感じていたので、こんなに早く変化が現れるのかと思っていました。印象が深かったのは、DeruQuiのゼミに自己発信コースの生徒さんが来てくれた時です。もうね、言葉が秀逸なんです。一緒に参加しているメンターの大人がびっくりするくらい、使う言葉が洗練されている。しかもポジティブな表現が当たり前のようにできている。自分を表現したり、言葉にしたりするのを、高校2年生にしてここまでできるのかとびっくりしましたね。

これからの教育と大人に求められること

──最後に、これからの教育における大人の役割をどんなふうに考えていらっしゃいますか?

(横尾先生)これまでの教育は「子どもだからこれくらいしかできないだろう」という”決めつけ”のようなものがあったと思うんですよね。だからこそ、レールに乗せていかなきゃいけない、正しい道に運んでいかなきゃいけないと、ここにも”決めつけ”があったような気がします。ただこれからは、「本当にそれで良いのか」と大人たちが考えなければいけないように思います。

今回のDeruQuiとのコラボを経て、生徒たち一人ひとりが自分で考えられるように成長してきている。その成長を大人は認めていかなきゃいけないと思います。どんどん自分でやっていく、やってみる体験を子どもたちにさせてあげないと、子どもたちの成長を大人が止めてしまいかねないと思うんです。だから、子どもたちの主体的な活動を支援する、一緒に走っていくことが、今の我々大人には必要だと思います。

実際に自己発信コースの先生たちもこの1年でびっくりするぐらい変化しています。生徒たちと一緒に体験して、生徒たちを見て、「自己発信」を育ててきています。生徒だけでなく先生たちも格段に進化しています。だから子どもたちと一緒に活動していくことが大事なのかなと思います。

──なんと、先生にも進化があったとは。相互作用しているのですかね。横尾先生から見てどのあたりに進化を感じられましたか?

(横尾先生)そうですね、例えば、ホームルームひとつとっても、先生の中でホームルームに対する概念がこの1年間で随分と変わったように思います。生徒の良さを引き出すことの大切さをかなり感じているのではと思うんです。だからホームルームなら、みんなで話し合って作り上げていくものという理解が進んでいるように思います。正直ここは言葉では表現しにくいですが、どの先生もそれぞれすごく進化しています。

──概念が変わる、すごい変化ですね。

(中川さん)すごく共感しますね。実はDeruQuiもメンターがむちゃくちゃ成長します。先日メンターと学生や若手社会人が集まる機会があり、そこでもメンターが口を揃えて「自分たちの方が勉強になってる」と。やっぱりこれが良い循環を生み出している気がするんです。生徒さんたちの方が遥かに感性が鋭く変化も早い、そして何より素直ですよね。それを大人たちが見て「自分やばいな」と感じる。大人の方がむしろ勉強させてもらっている感覚、この相互作用のある関係が創造されているのが、良いのではという気がしますね。

(横尾先生)そうですね。まさにその通りで、学校は生徒を伸ばすためでもありますが、生徒も先生も一緒に成長できる場であってほしいと思いますね。

──その関係はとても素敵です。横尾先生、中川さん、ありがとうございました。

あとがき

開催の経緯からこれからの教育まで語っていただいた今回のインタビュー。社会的な背景から今後求められる人材やその育成のために大人は何をしてくべきか、たくさんのヒントをいただいた時間でした。多様性の時代には、学校だけでなく学校の外にいる大人一人ひとりの存在が未来の人材を育てる鍵になりそうで

すね。子どもたちと一緒に学ぶ、伴走する姿勢を改めて大切にしていきたいです。

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Interviewer:Sakuya Iwasaki , Honami Uchiyama , Shino Simoyamada

Editor : Miyabi Yamada

Photographer:Kanae Fukumura

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■次回は生徒インタビューを掲載します。

■コラボゼミに関するお問い合わせはこちらから

reboltinc@gmail.com

■インタビューにご協力いただいた方

十文字中学・高等学校

一般社団法人 DeruQui

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