FUTURE BUILDER / 青木蘭

女性スポーツ界のアスリートによる未来創造型スポーツクラブ「OPT UNITED」。OPT UNITEDに参画したアスリートたちが思い描く「WAGAMAMAであれる未来」はどんな未来なのか。そして、思い描く未来のために、なくしたい「普通はこうあるべき」はなにか。ラグビー選手、青木蘭選手のインタビュー。

ラグビー / 青木蘭 プロフィール
神奈川県茅ヶ崎市出身。ラグビーコーチをしている父と、ラグビーをしている2人の兄の影響で3歳からラグビーを始める。島根県にある石見智翠館高等学校を卒業後、慶應義塾大学へ進学。大学ではクラブチームでラグビーを続けながら、自身でラグビーチームの創設を行う。大学卒業後、一般企業に就職。仕事をしながらラグビーを続けていたが、2021年9月末に会社を退職しプロ選手として活動を開始。横河武蔵野アルテミ・スターズでプレーしている。

ラグビーを続けるなかで迫られる選択肢

ーー青木選手は3歳からラグビーを始め、高校は島根県の学校へと進学されているのですね。

3歳から中学生までは、男子選手と一緒にラグビーをしてきました。ですが、高校進学にあたっては、「ラグビー部のある高校で男子と一緒にラグビーをする」「島根県の石見智翠館高等学校に進学する」「ラグビーを辞める」の3つの選択肢しかありませんでした。

私が高校生になるタイミングでは、ラグビー部がある高校が他になくて。東海大相模というところではラグビーをする環境ができるかもしれないという話があったのですが、結局「女子ラグビー部がある高校に行った方が絶対自分のためになる」と判断して島根に行く決断をしました。

ーー青木選手は高校でもラグビーを続ける決断をしましたが、中学から高校に上がる年代の女子ラグビー選手は、どのような選択をされているのですか?

多くの友達は競技を辞めてしまいました。高校では違う部活に入るという選択をしていて、数少ない友達は男子ラグビー部のある高校に進学して、男子と一緒に練習をする。

そのなかで、県外に行った私はすごく稀なケースでした。今は少しラグビー部がある高校が増えたので、前よりかは選択肢が増えたかもしれないけれど、今もあまり変わらないと思います。

ーー男子選手と同じチームに所属して、試合に出られるのですか?

女子は2重登録が可能で、部活に入りながらクラブチームでプレーすることができます。なので、神奈川県でラグビーしていた女の子たちのほとんどは、平日は男子と一緒に部活で練習して、試合のときはコンバインドチームをつくって全国大会に出ていました。単独チームとなると、当時は女子ラグビー部のある高校に進学するしかありませんでした。

男子ラグビーと女子ラグビーの壁

ーー大学ではクラブチームに入られましたが、大学の男子ラグビー部に入ろうとした気持ちがあったのか、そして入らなかった理由についてお聞きしたいです。

AO入試の段階から「体育会ラグビー部に入りたい」と伝えていて、当時の監督さんも了承していました。無事入試に合格して、入学式の前日までは部に入る予定だったのですが、前日に「やっぱり女子選手を受け入れた経験が部としてはないから、選手として受け入れることは難しい」と伝えられました。結局入部することは叶わず、高校卒業後は東京のクラブチームでプレーすることになりました。

ただ、慶応は日本で初めてラグビーチームをつくったルーツ校だったので、私がそこに入ることで、いろんな選択肢が生まれる可能性もあるし、女子ラグビーの発展に必要な場所だと考えていました。

ラグビー部に入部することはできませんでしたが、それならば自分でチームをつくってみんなの選択肢になるような活動をしたいと考え、ラグビーチームをつくったという経緯です。

ーーなるほど。大学に入学するまでに性別の壁を感じられたことはあるのですか?

中学生まで男子と一緒にやっていたので、ボールが回ってこない経験などはありました。高校に入ってからは、イベントや試合の運営の際に感じたことがあります。

普通は試合会場に更衣室があると思うのですが、女子の私たちは観客席で着替えていました。男子はもちろん更衣室があって運営もしっかりしていましたが、女子は発展途上だったからかそういうのもなくて。今はそういうこともなくなってきましたが。

過去に一度、着替えているときに選手が写真を撮られて、SNSに流出するという問題があって…。

ーー中高生のセンシティブな時期にそのような経験をすると傷つくのはもちろん、ラグビーを辞めてしまうのではないかと感じたのですが、そういう葛藤は実際にありましたか?

ありました。女子ラグビーの発展と仲間集めのために、中学2年生からSNSの発信を続けていたのですが、すごく注目される一方で一つひとつの行動に批判が集まりやすくて。

写真の流出の件でも私がターゲットだったのですよ。自分は女子ラグビーの発展のために発信をしていたのに、性的な目でみられる経験を中高大としてきて。発信が嫌になったり、なんのためにやっているのかわからなくなったりしました。

ーー批判にはどういうものがあるのでしょうか…?

やはりラグビーは男性スポーツというイメージが強いので、女性がラグビーをやっていること自体への批判が多かったです。例えば「なんで女なのにラグビーやるんだ」とか、比較対象が男性なので、「女子ってほんと足遅いよね」「スピード感も全然面白くないよね」とか。

他の選手は当時SNSで発信していなかったので、批判が私に集中したときもありました。私に対しての批判というよりも、女子ラグビー自体への不満や批判を言われることが多かったですね。

「仲間」には国籍も性別も関係ない

ーープレー人口も増えて環境が変わりつつあるなかで、それでも性別の壁を感じる機会はまだまだ多いのか、それとも減ってきたのでしょうか?

私自身、今は性別に対して固執していなくて、あまり目につくことはないです。

ラグビーは性別も国籍も、身長が高い低いとかも関係なくできるスポーツなので、国際的にみても多様性を大事にしている競技だと思っています。

チームメイトにLGBTQを発信している選手がいるのですけど、その選手が例えば「自分は女性が好きです」と言っても私たちは何も動じないというか。そういう文化がラグビーにはあって。その人を一人の人として見るのがこの競技の良いところだなと思います。

ーーそういった文化が根付いているのですね。

そうですね。男子の日本代表をみたらわかると思うのですが、多くの外国人選手が日本代表としてプレーしています。でもそこに対して、誰も何も思いません。

むしろ、自分の国を変えてまで日本のために闘ってくれてありがとう、という文化があって。笛が鳴ったら命をかけて激しくぶつかり合いますが、試合終了の笛が鳴ったら、ノーサイドで、私たちは兄弟だし仲間だし、みんな一緒の家族。

それは男子でも女子でも同じように大切にしていて、ラグビーという文化がそうさせてくれている。なので国籍も性別も性的嗜好も関係なく、私たちは兄弟だという感じなんです。

ーーその文化は、子どもの頃どのように教えられるのだろうという素朴な疑問があって。いつ頃から自分たちは兄弟なんだ、家族なんだという気持ちが生まれているのでしょうか?

小さい頃からタックルとか痛いことをするじゃないですか。人を傷つけるからこそ、その人を尊敬して大切にしないといけないんです。自分も相手を傷つけるし、傷つけられる。でもそこにはちゃんとしたルールがあって、お互いリスペクトがある。

中学生まで男の子と一緒にプレーしてきたなかで、私は標的になることが多くありました。敵からしたら、女だし弱いから。私も逆の立場だったら同じように考えていたと思います。でも当時のチームメイトは、蘭に集中攻撃がくるから自分たちが守ろうってなるんです。別に言葉で言われたわけではないですが、プレーで伝わってきました。性別とかは関係なく「仲間」だからって。

ーー男子選手に囲まれてプレーするなかで、やりづらさはなかったのですか?
私は、ありませんでした。成長のタイミングで男子の身長が一気に伸びたときは少し怖かったのですが、自分のなかで解釈を変えたんです。

自分が身体をはっていることを表現した方が仲間から信頼されるなって思って。もし「女だから特別」みたいな態度をとっていたら、壁や溝が生まれ続けてしまう。でも、私が大きな男子にもタックルしている姿をみたら、男子たちもタックルしないと示しがつかなくなりますよね。

そういう風に自分の考えや取り組み方を変えたことで、あまりチームメイトとギスギスすることはなかったなって。

ーーそもそものラグビーの文化と、2次成長があったときの青木選手の姿勢が、チームを活気づけたのでしょうね。

あとは、指導者も特別扱いを絶対にしませんでした。「女の子だからできない」とかは言われなかったですし、チームメイトに対して「みんな蘭のこと守れよ」とかも絶対言わなくて。

「自分たちのチームを守れ」と言ってくれていた指導者だったので、特別扱いされなかったこともすごく良かった。

自分らしく競技と向き合える環境を

ーー他の競技と比較して女子ラグビーがまだまだだなって感じることはありますか?

競技人口が少ないのはもちろんですが、ちゃんとしたリーグ分けがされていないこと。例えば、なでしこだったら1部リーグ2部リーグって各カテゴリーに分かれて、それぞれのリーグで試合がありますよね。

でも日本の女子ラグビーはトップリーグしかないんです。それなのにチームは92チームくらいある。上位12チームしか全国大会に出られなくて、それ以外の80チームくらいは、練習試合しかないのですよ。そういうところは、遅れているなと感じます。

ーーちなみに海外はどうなのでしょうか?

海外はしっかりと分けられています。いくつかの国では、7人制のラグビーと15人制のラグビーでもそれぞれリーグ・カテゴリーが分かれていて、自分たちのライフスタイルに応じて競技を楽しむことができる、生涯スポーツとして根強くあるなって。

ーー環境が整えばラグビーがやりやすくなると思うのですが、海外の成熟した文化をみて、取り入れるべき・取り入れたいと思う環境や仕組みはありますか?

「女性である」ということを選手自身も、チームも、指導者も、ファンも、みんなが理解している文化が海外にはあります。例えば、結婚して子どもを産むときは、一時的に競技生活から離れることになります。それをオープンにできて、素晴らしいことだと受け入れてもらえる環境が当たり前にあると思うんです。

でも今の日本では、出産後に競技復帰することは大きな挑戦ですよね、周りもそう捉えていると思います。女性選手が出産後に競技へ戻ってくるプロセスを、協会が提示していないんです。そういった経験や調査を、きちんと残していくことは今後すごく大事になると思います。

いつまで競技を続けて、いつこの競技の終わりを迎えるのか。自分らしく競技と向き合える環境を、日本もちゃんと整えていかなければいけないと思っています。

ラグビーが生涯スポーツであってほしい

ーーラグビーの課題や問題点についてお聞きしましたが、それらが解決した先にラグビー界の未来をどのように描いていますか?

ラグビーが生涯スポーツであってほしいと思っています。競技力の向上はもちろん大事ですが、人生のなかでラグビーをやっていた経験が活きたり、ラグビーで培った人間関係が社会で活きたり。ラグビーが人生に対してどんな影響を与えているのかというところまで、みんなが考えられるような世の中になればいいなって。「ラグビーを選んでくれた女の子たちが幸せになる環境にしたい」が私のなかでのテーマであり、自分がラグビーをする使命です。

ラグビーを続けることだけが幸せではないし、やった結果、いろんな人に出会えたとか、何かに活かせたとか、人の役に立てたとか。いろんな経験があって人の幸せって生まれると思います。

今いろいろと発信していますが、私の投稿は全部、後輩やラグビーを選んでくれた女の子たちに向けて書いているんです。「こうなってほしい」とは全然思わなくて、「こういう人もいる」っていうのを見せたくて。

私は子どものときに参考になる人と会うことがなかったから、ラグビーを長く続けたらどんな女性になるか想像ができなかった。でも今は、私だけでなくいろんな人が発信をしているから、みんな想像できると思うんです。

そうやって一人の選択肢を広げる活動をしたいですし、自分が経験してきた嫌なことを後輩たちには経験させたくない。もしもそうなったときに、どういう風に立ち直るのか。起き上がり方や向き合い方などを、参考になればいいなって思いながら発信しています。

ーー先ほど生涯スポーツとおっしゃっていましたが、本当はもっと長くプレーしてほしいという願いがあるのでしょうか?

やるかやらないかは自分自身の選択だと思っています。私はやりたいので、今はトップでやっています。でも、いつかトップでなくてもやりたいと思ったときにそういう環境があるのかなって。そういう環境って誰がつくってくれるのだろうって。

だったら今の段階で、次のステップに進むときのためにつくっておくのも一つの選択かなって思うんです。みんなが長く続けるというよりかは、ラグビーをやった女性たちがどんな風に輝いているのか、ラグビーを通じてどんな人生を送っているのかというのを大切にしたい。

ラグビーはコンタクトスポーツなので、負傷のリスクも高まるしどうしても競技を続けるのは難しくなります。ましてや妊娠や出産をしたら2年間くらいはできなくなるわけで。

そうなったときに「またあの舞台に戻りたい」とどれだけの人が思えるかなって。すごく難しいと思います。でもラグビーを選んだ後に、望まない引退は防ぎたい。もっとやりたかったけど、環境がなかったから辞めた選手を何人もみてきたので、そういう環境はつくりたくないなって思います。

ーー女子ラグビーの選手生命はどれくらいなのでしょうか。

大体20代前半になります。多くの選手は大学卒業と同時に辞めてしまうことが多いです。

ーーそれは身体的問題だけではなく、人生プランのタイミングでラグビーを諦めてしまう人が多いのでしょうか?

おっしゃる通りです。結婚とかもありますけど、仕事をしながらラグビーをしている人がほとんどなので、競技と仕事の両立がどうしても難しくなる時期ってあると思います。そういった面で早くにラグビーを辞める人がほとんどかなって。

ーー他の競技と比べて、ラグビーと仕事を両立しづらい要素ってあるのですか?

競技を続ける上で、目指すところが高いからだと思っています。トップで12チームしか試合ができないとなると、ずっとトップであり続けるのってかなり難しくて。草ラグビーとか草野球とかママさんバレーとか、いろんな関わり方が他のスポーツではあるなかで、女子ラグビーはすごくトップ思考が強い。それが引退という決断をさせてしまっている原因なのではないかなって思っています。

私が現在所属している、「横河武蔵野アルテミ・スターズ」というクラブチームは、下は18歳、上は33歳と幅広い年齢層の選手がいます。そのなかで、自分がこの競技を選んだ価値を感じてほしいし、その価値を磨いてほしいって後輩にはいつも伝えているんです。

これは「女性らしくあれ」ということではなくて、結婚をしても大丈夫だし、出産してまた戻ってくることもできるし、自分がやりたいって思ったことは諦めなければなんでもできる。そのように言うだけでなく、自分もそれを体現したいなって思っています。

ーーまさに生涯スポーツにするための取り組みをクラブで体現しようとしているのですね。

はい。私が所属しているクラブの存在意義は、「働きながら・学びながら自ら競技をする時間を創出する」こと。これは与えられるものではなく、自ら時間をつくっていかないとその存在意義を体現できません。

その意義を体現していかないとスポーツの意義は磨かれないし、価値を届けることもできない。それを私は自分のなかに置き換えて、自分の使命として活動していますね。

ーー実際に活動するなかで、周りがそれに応じて変わり始めた体験や経験はありますか?

競技歴が長くなったのではないかなと思います。昔は小中高大と進路を決めるタイミングで多くの選手が「ラグビーを辞める」選択をとっていたと思うのですが、今は「とりあえず続けてみる」選択に変わったのではないかなって。

全国の女子ラグビー界で、私の同期の人数って10人未満なんです。でも今の高校生はおそらく同期が200人くらい。競技を続けるっていうハードルは少しずつ下がり始めたんじゃないかなって思います。

ーーそんなに増えているのですね!

昔のように選択肢が限られているとしんどいですよね。でも私を含め、私の上の世代の人たちも、自分の選択肢を発信している。だからこそ、どんどん選択肢の幅も広がっているのではないかなって思います。

ーー青木選手は続けられる限りラグビーを続けていきたいと考えていますか?

今日できたことが明日ももっとできるようにっていう積み重ねを大切にしています。昨シーズンは15人制の全国大会で優勝したので、今年もチームでまた優勝したいです。

あとはラグビー教室や、自分のラグビーに対する気持ちを表現する場を自分でつくりたいですね。

ーー青木選手の素晴らしさって、自身の経験を糧に自分自身で切り開くことだと思います。誰もやったことがないことに対して、下の世代に伝える愛がすごい素敵だと感じました。その他にこれからやっていきたいことはありますか?

教えるのではなく、導く人になりたいってずっと思っていて。自分がしてきた経験から教えられることってあまりないのですけど。ただ携わっている子どもたちが「こんな風になりたい」と思った人がいるのであれば、その人に近づけてあげることはできる。

「こういう風にやればそうなるよ」って導くことはできるから。ラグビーを通じてどんな人間になりたいのかを考えさせる場だったりとか、そこに導く人でいたいなって今はすごく思っていて。そんな活動をこれからも続けていきたいです。

ーーとても素敵です。最後に、OPT UNITEDを通して、やりたいことを教えてください。

好きな人たちと好きなものをぎゅっと集めたイベントをやりたいです。OPT UNITEDのメンバーには多種多様なスポーツをしてきた人たちがいるので、そのスポーツを一度に楽しむことができるイベントは楽しそうだなと思います。

またスポーツを「文化」として捉えた切り口で、音楽やダンスや芸術などと組み合わせても面白いかなと。「WAGAMAMAであれ」というフレーズを体現していきたいなと思っています。

Text: Maho Kariya

Photography: Madoka Okazaki

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