女性スポーツ界のアスリートによる未来創造型スポーツクラブ「OPT UNITED」。OPT UNITEDに参画したアスリートたちが思い描く「”WAGAMAMAであれ”る未来」はどんな未来なのか。そして、思い描く未来のために、なくしたい「普通はこうあるべき」はなにか。OPT UNITEDの立ち上げ人であり、現役サッカー選手である下山田志帆のインタビュー。
サッカー / 下山田志帆 プロフィール
1994年生まれ。茨城県出身。サッカー選手。慶應義塾大学卒業後、渡独。2017-19年、Bundesliga2部のSVMeppenに2シーズン所属しプロ選手としてプレー。2019の春に同性のパートナーがいることを公表している。2019夏に日本に帰国し、2019-21はなでしこリーグ1部のスフィーダ世田谷FCでプレー。2019年秋には株式会社Reboltを共同代表として立ち上げ、2021年春にブランドOPTをスタートさせた。
ドイツで感じた肯定の居心地の良さ
ーー小学校3年生のころから始めたサッカーも今年で19年目とのこと。最初は男子チームと女子チームに所属するなど性別関係なくプレーしていたんですね
そうですね。小学生のころ、休み時間はほとんど男子と一緒にサッカーをしていたのですが「お前、サッカーうまいから俺のチームこいよ」って誘ってもらったことが私のサッカー人生の始まりでした。
もともと、小さい頃から「女の子なんだから」と言われることが嫌いな子どもで。当時、サッカーは男子のスポーツというイメージがまだまだ根強いスポーツだったので、当時の私は「サッカーだったら女の子らしくしなさいって言われない!男の子らしくいられて最高!」と思えたことがサッカーにのめりこんでいった理由だなと思います。
ーー中学まで男子チームと女子チームを行き来するなかで、居心地の良さに違いはありましたか
当時はそこまで深く考えていなかったですが、男子サッカー部に居るときに対等に扱われてると思えないときもありましたよね。相手選手から手を抜かれるとか、女が相手だぞって茶化されるとか。悔しいなとは思っていましたけど、その悔しさが逆にパワーになるなと感じてプレーをしていました。でも、今思えば、悔しさをバネにしたパワーの出し方を美学とされていたことにも疑問だし、純粋にサッカーがうまくなりたいと思える時間の方が選手として幸せだよなとも思うんです。
ーー美学になるんですね
マイナスなことも受け入れて頑張ることが美しいよねというか、それが女性アスリートのあるべき姿だよね、みたいなものは感じるなと思います。「男子選手の中で、悔しいことも多いけど頑張ってるんです」ってことが過大評価になっているんじゃないかって。
ーーなるほど。大人になったいま、下山田さんは自分の言葉で発信しているように感じています。発信に繋がるきっかけがあったのでしょうか
発信につながるきっかけは、ドイツに渡ったことですね。
少し話は逸れますが、昔から不合理なものごとに対しては納得がいくまで問い続ける性分で。「なんで女の子だからってそうしなきゃいけないの」と問い続けてきたなかで、納得する答えを返してくれる大人は誰もいませんでした。それが、子供ながらに「まわりと同じじゃない自分は普通じゃない」と自分を肯定できない理由になっていたなと思っています。
でも、大学卒業後にドイツに渡って「みんなちがう」前提でルールが存在したり、コミュニケーションが成立する環境に身を置くなかで、ようやく日本の同調圧力みたいなものは間違っていたよなと気がつくことができたんです。
だから、いま発信しているのは、子どもの頃の自分の代弁をしているような感覚が強いですね。言い換えれば、自分のようなモヤモヤを抱えている子どもを未来に残したくないという気持ちで発信しています。
ーードイツに行った経験が、自分の人生の中でもとても大きかったってことですよね
そうですね。多分、ドイツに行っていなかったら発信なんてしてないと思います。在独中に同性のパートナーがいることも公表していますが、公表しようとすら思えなかったはず。ドイツでは「普通はこうあるべき」はなくて、「それぞれの普通があっていいんだよ」って感覚なんですよね。そうやって、周りがわたしを肯定してくれたからこそ、自分でもこれまで感じてきた違和感って正しかったんだなと肯定できるようになったことが、発信に繋がっていますね。
ーー「自分を肯定するという話が出できましたが、先進国の中でも日本って自己肯定感がすごく低い国だとデータも出ていますよね。なんでそんなに自己肯定感が低いのか、自分を受容する力が弱いんのか考えることが多くて。スポーツ現場から見たときに、ドイツと日本では何が違うと感じていますか
ドイツでは、その人の個性を100パーセント、120パーセント出すことが一番評価されます。一方で、日本では何が一番評価されるかといえば、組織にフィットしたプレーをすることなんですよね。ドイツでプレイしていたとき、指導者もチームメイトも下山田志帆の強みを常に評価してくれる。一方で、日本のリーグに帰ってきて思ったのは、組織のために自分ができてないところを磨く時間が多かったり、反省する時間の多さ。できないことからできた事に変わったときに、大きく評価される。
私たちが子どもの頃からそのスタイルで教えられてきたなと思うし、それが当たり前だと思って生きてきた。組織にフィットするのか、それとも自分の個性を押し出すのか。スポーツだけじゃなくて、日常生活でもその違いは感じてきましたね。
ーーそれ、サッカーだけじゃなくて、学校や会社でもそうかもしれない。日本という大きいくくりで話すのは難しいことかもしれないけど、たくさんの場所の土壌に根付いてる「普通はこうあるべき」には大きな共通項がありそうだなと思いながら聞いていました
Be selfishである人を増やし続ける
ーースポーツ界において、男女でも格差があることが世の中でも知られてきていますが、どうようなアプローチが必要だと感じていますか
女性スポーツ界には様々な問題があるけれど、それをアスリートは自分たちが悪いんだと思ってしまうと感じています。間違っているのは構造の方なのに。自分が変わんなきゃとか、自分がもっと強くならなきゃって考えてしまうことが多いと感じていて、そこを問い直していけるようにしたいなと思いますね。
OPT UNITEDの立ち上げ人として、参画してくれたアスリートである石塚選手、村上選手、青木選手のインタビューに同席させていただきましたが、とても考えさせられました。ぜひ、他のアスリートのインタビューも読んでもらえたらと思いますが、女性スポーツ界の「普通はこうあるべき」に直面したとき、当人は声を上げづらいことがよく分かりましたし、インタビュー終わりにこうやって言葉にできる機会もなければ聞いてくれる人もいなかったと話してくれたことが印象的でした。
ーー私もインタビューに同席させてもらいながら、自分が見てきたスポーツシーンはポジティブなシーンや選手が輝いているシーンが多いと思うし、それによって心を動かされる人たちってたくさんいると思うけど、その裏側をどれぐらいの人が知っているんだろうと感じました
本当に。石塚さんの言葉を借りると、今までは光が当たってこなかったことにも光が当たるような女性スポーツ界にしたいと心から思います。そして、誰もどうせ聞いてくれないだろうって思っているアスリートたちにそんなことないよと言えるアスリートでありたいし、そう言える場所をつくりたい。それは、インタビューを通して湧き出た想いだなと思います。
ーーより良い未来のために、いまある課題を批判して一緒に変えて行こうという動きって本来ナチュラルなことですよね。でも、現状を変えることは誰にでもできることではないと思います。バッシングされることへの怖さなどもあるのではと思いますが、そんな中でも志帆さんが動くことができる原動力はなんでしょう
「誰かのために」「未来のために」のためにが先行していたら、いつか自分が潰れてしまうような気がしますし、それはたしかに怖いことだと思います。自分を犠牲にしてまでやり続けることは自分にはできないです。
でも、私が行動している理由って、ただただ苦しかった子どもの頃の自分のためであり、これからも自分がありのままでいるたためでしかないんですよね。
ーーなるほど
この間、半年前に答えたインタビューが今になって原稿が届いたんです。その原稿の一文に「下山田さんがカミングアウトしたことが、誰かを救っていると感じています。下山田さん自身はどのように感じていますか」って質問があったのですが「誰かのためにではなく、自分のためにしかやってないです」ってキッパリ言い切っていたんですよね。過去の自分がそう言い切っていたのを見た時に「あ、これってOPT UNITEDのメッセージでもある”Be selfish for others”だ」ってハッとさせられたんです。
自分の中ではカミングアウトしたこと自体は人生を変える大きなことだったと思っていますが、それはBe selfishであり続けるための手段でしかなかった。でも、それが結果としてfor othersになっていたんだなって気がつけたんですよね。for othersは無意識についてくるものであって、for othersのためにBe selfishである必要は全くないんだなって。
ーーじぶんが起点にあって、それが結果的に社会のためになるっていう順番なんですね。まずは、Be selfishである人を増やすことがきっと結果的に社会のためになるかもしれないし、未来を変えるかもしれないという意識なんだなと感じました
そもそも、なんで日本では「わがまま」という言葉がネガティブに捉えられてしまうのか。ありのままであることを、自己中だとか組織悪だとされてしまうのか。そこに私は違和感があります。
わがままは語源を辿れば「ありのまま」であるということ。ありのままであることの何が悪いのでしょうか。女性スポーツ界において、わがままである人たちは組織のリスクとされて叩かれてきたけれど、むしろわがままであることが誰かのためになるし、未来をつくるはずなのではと。
ーーちなみに、何がそんなにリスクって思われてしまうのでしょうか
リスクと捉える層がいることがリスク、なんだと思います。「何かよくないことが起こるかもしれない」って。今までは、リスクと捉える層に対して、選手のわがままを閉じ込める方法をとる組織が多かった。でも、それは選手のためにも組織のためにもならないと私は思います。
ーースポーツ界はなぜそのような構造になってしまっているのでしょうか
言い方が悪いかもしれませんが、選手は駒でしかなかったんだと思うんです。スポーツというビジネスにおける駒でしかなかった。でも、選手個人が声を上げられるプラットフォームが普及しはじめることで、選手の個性にフォーカスが当たるようになって。そうやって、選手が組織を通さずして声を上げられる状況になったとき、選手の個性に対する価値がスポーツ界でも上がってきた気がします。
選手たちも、元々は組織の駒として重宝されることが必要とされていることと同等だと思っていたはず。でもいまは、チームに必要とされることはもちろん必要だけれど、それと同じくらい自分自身がどんな選手・どんな人でありたいかという信念や価値観を大切にする風潮にシフトしてきたなと思います。
スポーツ界のチカラで「だれもがWAGAMAMAであれる未来」を
ーーいよいよ、OPT UNITEDが立ち上がります。立ち上げ人として、サッカーに留まらず、他の競技のアスリートと一緒に動き出そうと思い立ったキッカケはなんだったのでしょうか
2019年に会社を立ち上げていますが、ずっと「だれもがWAGAMAMAであれる未来」をつくりたいと本気で思ってきたし、その未来をつくることができるのは女性スポーツ界のアスリートであるとも本気で信じてきました。一方で、同じように、スポーツを手段に社会を変えることができる可能性にワクワクしているアスリートはいるんだろうかとも不安に思っていて。
今回、立ち上げから参画してくれるアスリートたちは、その想いをはなしたときに「自分もWAGAMAMAだよ!」「楽しそう!」って言ってくれるアスリートたちだった。それがとても嬉しく感じたし、競技に関係なく同じ想いを持っているアスリートたちで手を繋げたら面白いだろうなって純粋に思ったんですよね。
ーーこれまでは「普通はこうあるべき」とされてきたことに対してアプローチしていくのがOPT UNITEDであるとしたら、今後、どのような人たちに集まってほしいですか
集まってほしい想いよりも、まずは自分たちのアクションを見ていてほしいと思っています。
立ち上げのタイミングで何も見えない状態のなか、集まってくれたアスリートをはじめメンバーの皆さんに本当に感謝をしています。なんか面白そうだから、スポーツのチカラに可能性を感じるから、それだけの理由で集まってくれましたから。
しかも、参画してくれたアスリートたちは、OPT UNITEDだからこれができそうだってものを明確に持ってきてくれている。そうやって、OPT UNIETDを信頼してくれているからこそ、アスリートの想いをソーシャルアクションで形にすること。まずはそこにとことん向き合いたい。
アクションを通して、OPT UNITEDのアスリートたちがどのように自分のWAGAMAMAを表現していて、どんな言葉で普通はこうあるべきに問題提起しているのかをまずは見ていてほしい。その上で、ワクワクを感じた人にこそOPT UNITEDにきてもらえたら嬉しいです。
ーーありがとうございます。さいごに、OPT UNITEDがなぜそこまでスポーツに可能性を感じているのか。スポーツにはどんなチカラがあるのかを教えてほしいです
スポーツはだれもがWAGAMAMAであれる場所だと思っています。
本来、ピッチの上では、性別も国籍も障害の有無も関係ない。その人がありたい姿であれることがスポーツの素敵なところなんです。一方で、女性スポーツ界には、ピッチの上であってもWAGAMAMAであれない選手がいたり、ピッチと社会の間で「普通はこうあるべき」に苦しんでいる選手もいる。
わたしは、そのすでにWAGAMAMAであれる場所である事実と、もっとWAGAMAMAであれる余白が共存しているところに女性スポーツ界の可能性を感じています。WAGAMAMAな人たちから発せられる言葉にはポジティブなパワーが存在するし、WAGAMAMAでありたいとアクションを起こす姿も社会を動かしていくパワーが存在すると信じています。
Text: Fumina Nakazaki
Photography: Miho Aoki